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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)1384号 判決

原告 株式会社清水ミシン商会

被告 佐竹清

主文

被告が東京精工ミシン株式会社に対する東京地方裁判所昭和二十九年(ヨ)第九八六七号不動産仮差押決定正本に基き別紙〈省略〉目録記載の建物に対してなした仮差押はこれを許さない。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として――被告は東京精工ミシン株式会社に対する金銭債権を保全するため右会社に代位して別紙目録記載の建物につき保存登記を経由したうえ東京地方裁判所昭和二十九年(ヨ)第九八六七号不動産仮差押決定正本に基き同年十二月二十二日右建物に対し仮差押の執行をなした。しかしながら右建物は原告が同年五月十九日前記会社から当時建築中のものを買受けその後残工事を施行しこれを完成させてその所有権を取得し、昭和三十年一月二十六日その保存登記を経由したものであつて右会社の所有ではない。なお右建物については右のように東京精工ミシン株式会社のためと原告のためとの二個の保存登記が存するがその所有権が実質的にいずれに帰属するかの観点からして前者は無効であり後者はあくまでも有効である。従つて前記仮差押決定正本に基き右建物が執行を受ける謂れはないから右執行の排除を求めるため本訴に及んだ。――と述べた。〈立証省略〉

被告は請求棄却の判決を求め答弁として――、原告主張事実中被告が東京精工ミシン株式会社に対する金銭債権を保全するため右会社に代位して別紙目録記載の建物につき保存登記を経由したうえ原告主張の仮差押決定正本に基き右建物に対し仮差押の執行をなしたことは認めるがその余の事実はすべて否認する。右建物が東京精工ミシン株式会社の所有たることはこれに対する昭和二十九年度固定資産税が右会社に賦課されたことに徴して疑う余地がなく本件異議は原告が右会社と特殊の関係にあるところから右会社をして被告の執行を免れしめんがため虚偽の事実を構えて争うにすぎない。――と述べた。〈立証省略〉

理由

被告が東京精工ミシン株式会社に対する金銭債権を保全するため右会社に代位して別紙目録記載の建物につき保存登記を経由したうえ東京地方裁判所昭和二十九年(ヨ)第九八六七号不動産仮差押決定正本に基き同年十二月二十二日右建物に対し仮差押の執行をなしたことは当事者間に争がない。

しかるところ成立に争のない甲第二号証、同第五号証、証人倉島秀雄の証言により真正に成立したものと認める甲第二号証、同第四号証並びに右証言によれば東京精工ミシン株式会社は右建物を建築中昭和二十九年五月十九日これを金二百三十万円で原告に売渡し原告はその後建築を続行してこれを完成し昭和三十年一月二十六日その保存登記を「東京都台東区上根岸町百三番地所在(家屋番号同所百三番の五)木造瓦葺二階建倉庫兼作業所一棟建坪二十七坪、二階二十七坪」なる表示のもとに経由したことが認められ右認定に牴触する証人成田元根の供述は措信し難くその他右認定を動かすに足る証拠はない。もつとも証人倉島秀雄の証言によれば右建物に対する昭和二十九年度の固定資産税は東京精工ミシン株式会社に賦課され、その第一期分は右会社において支払つたことが窺われるが税金の賦課にあたり納税者の認定を誤つたものと考えられるから右課税の一事を以てしてはいまだ前記認定を左右するに足りない。してみると右建物は前記仮差押前原告の所有に帰属していたものと謂わなければならない。

しかして本件建物につき東京精工ミシン株式会社のためと原告のためとの二個の保存登記が存することは前説示により明らかであるが弁論の全趣旨に徴すれば右各登記はその表示上に差異を有することが窺われ従つてそれぞれ別個の登記用紙を起してなされたものであることが推認されかゝる場合においてそのいずれが有効であるか否かはいわゆる同一登記用紙に同一内容の記載があるいわゆる二重登記の場合と異り専らいづれが所有権帰属の実際に合致するかによつて決すべきであると解するのが相当であるところ本件建物が原告の所有であることは前説示のとおりであるから右両登記は前者を以て無効、後者を以て有効と解すべきである。従つて原告は前記所有権取得につき有効な登記を具えたものと謂つて妨げない。

そうだとすれば前記仮差押決定に基き本件建物に執行が加えられたことは不当であつて当然排除すべきものである。もつとも本件仮差押の執行は元来無効たるべき保存登記のなされた登記用紙に仮差押の趣旨を記入することによつてなされたこととなるので果して有効な執行であるか否かにつき疑がないわけではないけれども右保存登記が抹消される等特段の事情がない限り現実には本案の債務名義に基き本件建物に対する強制執行手続が進行する虞があるから結局右仮差押の執行の排除を求める利益があることに帰着するのである。

よつて原告の本訴請求を正当として認容すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 駒田駿太郎)

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